コラム

「まだ切符なの?」に学ぶ、寄り添いで動く「育成マネジメント」

「まだ切符なの?」に学ぶ、寄り添いで動く「育成マネジメント」「え、まだ切符なの?」に学ぶ、寄り添いで動く「育成マネジメント」

「え、まだ切符なの?」から見えた、育成マネジメント
―変化を促すのは「教えること」ではなく「寄り添うこと」

「まだ切符なの?」に学ぶ、寄り添いで動く「育成マネジメント」

あるニュース記事に目が留まった。
妻がスマホPASMOで改札を通り抜ける横で、夫は券売機で切符を買っている。
その様子を見た妻が「こうやって人は時代に取り残されていくのかしら」とつぶやく。
現金派の夫と、キャッシュレス派の妻。
二人のやり取りに、思わず苦笑しながらも、私ははっとした。

これこそ、まさに「育成マネジメント」に通じる構図ではないか。
人は誰しも、新しいことに抵抗を感じる。
そしてその変化を後押しするのは、強い指示や説得ではなく、「寄り添い」と「信頼」なのだ。

目次
1.変化を促すのは「教えること」ではなく「寄り添うこと」
2.「便利さ」よりも「納得感」が人を動かす
3.成長は「教える側」の変化から始まる
4.「不便」を知ることで、学びが深まる
5.「任せる・育てる・信じる」という関係

 1.変化を促すのは「教えること」ではなく「寄り添うこと」

妻は夫に「なんでまだ切符なの?」と責めることなく、その姿を静かに見守っていた。
自分とは違う考え方を受け入れ、相手のペースを尊重する。
この姿勢こそ、変化を生む第一歩だ。

職場での人材育成も同じである。
指導というと「教える」「導く」が強調されがちだが、実際に人を動かすのは「寄り添い」である。
相手を否定せず、理解しようとする関わりが、学びへの扉を開く。

 2.「便利さ」よりも「納得感」が人を動かす

旅行の終盤、夫の心境に変化が訪れた。
妻がスマホで改札を通過する姿を見て、「次の旅行ではそのピッてやつ使う。教えて」と言ったのだ。
それまで頑なだった夫が、自ら「使ってみたい」と思えた瞬間。
この変化を生んだのは、便利さそのものではなく、自分の中に芽生えた「納得感」である。

職場でも同じ構造がある。
「やれ」と言われて動く人はいない。
「なるほど」と納得したとき、人は自ら動き出す。
上司の役割は、納得のきっかけをつくることだ。

 3.成長は「教える側」の変化から始まる

今回、変わったのは夫だけではない。
いつもなら「だから言ったでしょ」と笑い飛ばす妻が、今回は優しく使い方を教えた。
相手を変えようとする前に、自分の関わり方を変えた。
その変化が、夫の行動を後押ししたのである。

育成マネジメントでも、部下の成長を願うなら、まず上司自身の姿勢が問われる。
教える側の変化が、学ぶ側の意欲を引き出す。
まさに「育てる人が育つ」瞬間である。

 4.「不便」を知ることで、学びが深まる

妻は最後にこう語っている。
「現金派、アナログ派が好きなところもあります。アナログならではの楽しさ、切符が思い出になることはいいことだなとも思います」

この言葉には、深い示唆がある。
効率を追い求める時代だからこそ、「不便」に触れることで、相手の立場や感情を理解できる。
指導者が現場の苦労を肌で知ること。それが、信頼関係を強くする。

 5.「任せる・育てる・信じる」という関係

この夫婦のやり取りは、「変化を押しつけるのではなく、共に歩む」ことの大切さを教えてくれる。
変化を求めるとき、人は往々にして「速さ」を重視しがちだが、実際に力を発揮するのは、「信頼に支えられた歩み」である。

相手を信じ、寄り添い、納得を待つ。
それが「任せる・育てる・信じる」でチームを動かす
育成マネジメントの真髄なのかもしれない。

 『育成マネジメント』に通じる学び

今回のエピソードが示すように、人は「教えられて」変わるのではなく、「信じられて」変わる。
それは私の著書『管理職が育てば、会社が伸びる「育成マネジメント」』で伝えているメッセージと同じである。

本書では、部下が自ら考え、動くチームをつくるための具体的な実践法、「任せる・育てる・信じる」の3つの行動原則を体系的に解説している。

日常の何気ないやり取りの中にも、人を育てるヒントは必ずある。
今回の「切符とスマホPASMOの物語」もまた、そのひとつの実例だろう。
人の変化を促すのは、スキルではなく、関わり方の「温度」なのだ。

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「まだ切符なの?」に学ぶ、寄り添いで動く「育成マネジメント」|(c) Nobuhide.Ooba

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