コラム

「特に問題ありません」が増えた職場で起きていること

「特に問題ありません」が増えた職場で起きていること

「特に問題ありません」が増えた職場で起きていること

 

目次
部下が黙ってしまう職場は健全か
「何も言わない」は、問題がないことを意味しない
「なぜ言わなかったのか」と思ったときに考えたいこと
上司を「評価者」だけで見ることのズレ
静かな職場と健全な職場は同じではない

 

 部下が黙ってしまう職場は健全か

SNSで、次のような投稿を見かけました。
上司に報告しない方がいいこととして、

  • 「ちょっとしんどいです」といった弱音
  • 「この業務は苦手です」という本音
  • モチベーションが下がっていること
  • キャリアで迷っていること

といった内容が挙げられていました。

その理由として書かれていたのは、「上司は味方ではなく評価者。ネガティブな情報は自分から伝えない方がいい」という考え方です。

評価される立場にある以上、そう考えてしまう気持ちは理解できます。
弱さを見せるより、黙って成果を出す方が安全だと感じるのは、ごく自然な反応です。

 

 「何も言わない」は、問題がないことを意味しない

ただ、少し立ち止まって考えてみる必要があります。
部下が何も言わなくなったとき、そのような職場は順調なのでしょうか。

日々の報告は上がってくる。
業務も回っているように見える。
目立ったトラブルも起きていない。

こうした状況ほど、「特に問題はない」と受け取られがちです。
しかし実際には、負荷や違和感、迷いといった情報は、声にならないまま現場に溜まっていきます。見えていないだけで、消えているわけではありません。
むしろ、問題がないという大問題。

ここで、視点を上司側に移してみます。

マネジメントは、限られた情報をもとに、その時点で最善と思われる判断を積み重ねていく行為です。
その前提となる部下からの情報が入らなくなれば、上司がどれほど経験や能力を持っていても、判断は少しずつ現場とズレていきます。

部下が黙ることで、上司の判断材料は減ってしまいます。

 

 「なぜ言わなかったのか」と思ったときに考えたいこと

問題が表に出たとき、「なぜもっと早く言ってくれなかったのか」と感じる場面があります。

ただ、部下が黙るのは突然ではありません。
言っても変わらなかった。
言ったことで評価が下がった気がした。
真剣な話が感情論として流された。

そうした経験の積み重ねが、「言わない方がいい」という判断を生みます。
沈黙は性格の問題ではなく、環境への適応です。

 

 上司を「評価者」だけで見ることのズレ

ここで改めて、冒頭の考え方に戻ります。
「上司は味方ではなく評価者だから、弱みは見せない方がいい」

確かに、上司には評価の役割があります。
しかし同時に、成果を出させる責任があり、配置や業務設計を調整する責任があり、部下の状態変化を把握する責任もあります。

前者だけを強調すると、マネジメントの判断そのものが歪みます。

弱音や「しんどさ」は甘えではなく、業務負荷を判断するための情報。
苦手な業務の申告も、本来は育成や業務設計の材料です。
モチベーションの低下やキャリアの迷いも、評価材料ではなく、配置や役割を考えるための判断材料です。

 

 静かな職場と健全な職場は同じではない

もちろん、何でも感情のままに投げればいいわけではありません。
重要なのは「伝え方」と「目的」です。

愚痴として出すのか、業務改善や成長の相談として出すのか。
「しんどいです」で終わらせるのではなく、「この負荷の原因はここにあり、こうなれば改善する」と整理して伝えることで、はじめて情報として意味を持ちます。

部下が何も言わない職場は、一見すると問題がないように見えます。
しかしそれは、情報が整理されている状態ではなく、情報が届かなくなっている状態かもしれません。

静かであることと、健全であることは同じではない。
その違いに気づけるかどうかが、上司のマネジメントの質を分けていくのだと思います。

 

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