コラム

『どうせ無理』が職場に広がっていないか

『どうせ無理』が職場に広がっていないかーー挑戦を止める「空気」を、地道な積み重ねで変える

『どうせ無理』が職場に広がっていないか

「どうせ無理」

この言葉が出た瞬間、議論が止まる。
動きかけていた手が、引っ込む。
そして何より、挑戦する前に“結論だけ”が共有されてしまう。

怖いのは、失敗そのものではありません。
「やっても無駄だ」という前提が、職場の共通理解になっていくことです。

この前提が広がると、組織は表面的には整って見えます。
大きなトラブルも起きにくい。
でも内側では、思考が止まり、改善が止まり、成長が止まる。
静かに、確実に。

ここから先は、育成の現場でよく起きる「諦めの連鎖」を分解してみます。
分解できると、手が打てます。精神論ではなく、手順に落ちます。


諦めは、本人の性格で片づけられがちです。
しかし実際は、職場の経験が“学習”した結果として起きることが多い。

典型的な流れはこうです。

  1. 何かに挑戦する

  2. うまくいかない(または途中で止められる)

  3. その後に残るのが「反省」ではなく「責め」になる

  4. 次からは、傷つかないために動かない

  5. 動かないので、当然成果も出ない

  6. 「ほら、無理だった」が強化される

つまり「どうせ無理」は、怠けではなく自己防衛です。
失敗への恐れというより、失敗のあとに起きる“扱われ方”への恐れ。
ここがポイントです。


 本当に怖いのは「ミス」ではなく「無力感」

育成の現場で、最も厄介なのは無力感です。
無力感が強い状態では、こうなります。

  • 指示がないと動けない(指示待ちになる)

  • 自分の判断を出さない(責任を負いたくない)

  • 改善提案が減る(言っても変わらないから)

  • 報連相が遅れる(怒られる未来を先読みする)

これらはすべて、「関わるほど損をする」という学習の結果です。
だから、根性論で「前向きに行こう」と言っても逆効果になります。
前向きになれないのではなく、前向きになるリスクが高いのです。


 特効薬がない理由

「空気」を変える特効薬がないのは、原因が一つではないからです。

空気は、日々の小さな出来事の“合計”でできています。

  • 誰が、何を、どんな言い方で見ているか

  • 失敗が起きたとき、どんな言葉が飛ぶか

  • 成果が出たとき、誰が拾い上げるか

  • 行動の変化が起きたとき、誰が認めるか

だから逆に言うと、空気は「小さな出来事の設計」で変えられる
派手な制度変更より、日常の反応設計が効く。


 育成の現場で効くのは「小さな前進の言語化」

ここからが実務の話です。

諦めが蔓延している職場に必要なのは、評価の前に「回復の順番」
順番を間違えると、さらに固まります。

回復の順番はこうです。

  1. 行動の変化を拾う

  2. 言葉にして返す

  3. 小さな成功体験として本人の中に残す

  4. 次の挑戦が“少しだけ”軽くなる

ポイントは「結果」ではなく「行動の変化」に反応すること。
結果が出るまで待っていたら、回復が始まりません。
回復の初期は、結果が出ない時期が必ずあるからです。

たとえば、こういうものです。

  • 発言が1回増えた

  • 相談が早くなった

  • 報告が事実ベースになった

  • 先に仮説を持ってきた

  • ミスの隠蔽ではなく共有を選んだ

  • いつもより1件だけ早く手をつけた

ここに光を当てる。
そして、その場で短く言葉にする。


 「最初の3分」でやるべきこと

部下やメンバーと話す最初の3分で、次の3点を意識します。

① 事実を先に言う

「さっきの会議で、あなたが先に論点を整理してくれましたね」
評価ではなく、観察した事実に注目する。

② 行動の意味づけをする

「先に整理から入ると、全体が進みます。あれは価値がありましたね」
行動が“組織に効いている”と本人が理解できる言葉をいう。

③ 次の一歩を小さく指定する

「次も、最初の一言だけでいいから整理を入れてくれる?」
次の挑戦を小さくして、成功確率を上げる。

これが、地味だけど強い「回復の型」です。


 信頼は「一気に戻すもの」ではない

信頼は、壊れるときは速い。
戻るときは遅い。

だから、焦るほど逆に壊します。

重要なのは、「信頼を回復させよう」と気合を入れることではなく、
信頼が回復する条件を、淡々と整えることです。

  • 見ている

  • 言葉にして返している

  • 行動の変化を基準にしている

  • 次の一歩を小さくしている

  • 失敗を“責め”ではなく“学び”で扱っている

この条件が揃うと、職場の前提が変わります。
「やれば何かが変わるかもしれない」
この感覚が戻った瞬間から、組織は動き始めます。


 今日の問い

今日、誰のどんな小さな成功(行動)を見つけますか。
どんな「できた」を言葉にしますか。
その一言は、組織の空気を変えるかもしれないし、誰かの次の挑戦を守るかもしれません。

諦めが広がる前に、小さな前進をすくい上げる。
それが、育成の現場でできる最も確かな一歩です。

 

育成マネジメント(note)

『どうせ無理』が職場に広がっていないかーー挑戦を止める「空気」を、地道な積み重ねで変える

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