松下幸之助ー社員心得帖(幹部社員の心得から)
私の読書メモ
1.本書からピックアップ
会社では物事を決めるのに、例えば会議などを開いて慎重に検討し、皆の意見を取りまとめて決定するといった形がよく取られます。私はそのように例えみんなで一緒に決めたと言う形になるにしても、その決定を実際に採用するか否かは、その部門の責任者、いわゆる長の判断によるものだと思います。
「自分としては賛成しかねるのだけれど、全体で決まったことなので・・・などと言うのは、責任者として取るべき責任の自覚が欠けていると言うことになるのではないでしょうか。
会社全体の問題についても、必要があれば、社長や重役に対して、自らの責任において言うべきことを言わなければならない。そういう責任ある姿勢、態度をとってこそ、部下や上司の信頼も集まり、力強い仕事を進めていくことができるのではないでしょうか。
幹部社員としての職責を果たしていくためには、やはり「自分は仕事のプロである」と言い切れるだけの自信と実力を持たなければならない。
幹部社員たるもの、絶えず自分の実力について自問自答しつつ、真剣にその涵養を図っていかなければならない。そしてそういう努力を続ける限り、人間の考え、人間の実力の伸びと言うものは際限のないものだと私は思います。
“企業は人なり”ということがよく言われますが、会社の経営において、良き人材を育てる必要がある事は改めて言うまでもありません。
それではどうすれば、良き人材を育てることができるのか。まずその文なり課の方針をはっきり示す。「我々の部は、社内にあってこういう分野の仕事を担当している。この我々の任務をより正しくより効率よく果たしていくために、今度はこういう方針で取り組んでいきたい」と言うことを、部長が部員全員にはっきり示し、訴えるのです。そして「諸君はこうした当部の方針、目標を理解して、自ら大いに勉強努めてほしい。難しいことがあれば、相談に乗る」と機会あるごとに要望していく。そういうことがまず基本だと思うのです。
2.感想
責任ある立場とは、「決定に従う人」ではなく「決断を引き受ける人」である
社員心得帖に一貫して流れているのは、立場が上がるほど「判断から逃げてはならない」という、極めて厳しい責任観です。
会議で決まったから従う、皆で決めたから仕方がない。松下幸之助は、そうした態度を明確に否定します。たとえ多数意見であっても、それを採用するか否かは、最終的には責任者自身の判断であり、その結果に責任を持つ覚悟が問われるという姿勢です。
ここで語られている責任とは、命令を実行する責任ではありません。「自分の判断として引き受ける責任」です。
責任者が「自分は反対だったが…」と逃げ道を残した瞬間、部下はその判断を信じなくなります。信頼とは、正しさ以前に「引き受けているかどうか」で決まる。その厳然たる事実が示されています。
また、幹部社員に求められているのは、役職に見合った知識や肩書きではなく、「自分は仕事のプロである」と言い切れるだけの覚悟と実力です。
そのためには、常に自分の力量を問い続け、学び続ける姿勢が不可欠であると語られます。ここに、成長は一度で完結するものではなく、責任ある立場にある限り終わりのない営みである、という松下の人間観が表れています。
さらに印象的なのは、人材育成の捉え方です。
人は放っておいて育つものではありません。まず上に立つ者が、部門の役割と方針を明確に示す。そして、その方針のもとで「自ら学び、努力してほしい」と繰り返し訴え、必要なときには支援する。
育成とは仕組み以前に、上司の姿勢と覚悟によって始まる行為であることが、具体的に示されています。
本書は、管理職や幹部社員に対して、甘い慰めを与えるものではありません。
その代わりに、「立場に伴う重さ」と「成長し続ける責任」を、真正面から突きつけてきます。
3.この言葉の活かし方
判断を「合意」に預けず、自分の責任として引き受ける
具体的な活かし方
• 会議で決まった内容について、「自分はどう判断するか」を必ず言語化する
• 多数意見であっても、成果やリスクの観点から納得できない点は明確にする
• 「皆で決めたから」という言い訳を、責任者自身が使わない
実践例
部門会議で新施策が決まった際、「全体で決まったので進めます」ではなく、「この施策はこの理由で成果につながると判断した」と責任者自身の言葉で説明し、実行を引き受ける。
「仕事のプロであるか」を自分に問い続ける
具体的な活かし方
• 役職ではなく、「自分はこの分野のプロと言えるか」で現在地を確認する
• 成果が出なかったとき、環境や部下のせいにせず、自分の力量を振り返る
• 学ぶ理由を「評価のため」ではなく「責任を果たすため」に置く
実践例
管理職が部下の成果不足を感じたとき、指示の出し方や管理手法を見直す前に、「自分はこの仕事の本質を十分理解しているか」を問い、必要な知識や判断軸を学び直す。
方針を示し、「自ら考え努力する場」をつくる
具体的な活かし方
• 部門の役割と方針を、曖昧な言葉ではなく具体的に示す
• 方針を示した上で、「どう実現するか」は部下に委ねる
• 困難があったときに、相談できる関係性を日常的につくる
実践例
部長が年度初めに、「我々の部署は会社の中で何を担っているのか」「今年どこを強化するのか」を明確に示し、その上で部下に学習と工夫を促し、定期的に対話の場を設ける。
4.まとめ
『社員心得帖』が示しているのは、立場が上がるほど軽くなる責任ではなく、重く、深くなる責任です。
責任者とは、決定に従う人ではなく、決断を引き受ける人である。
幹部社員とは、肩書きではなく、「仕事のプロであり続けようとする人」である。
人材育成とは、仕組み以前に、方針を示し、成長を信じて任せる姿勢である。
自分はいま、責任ある立場として、判断を引き受けているでしょうか。
その問いを持ち続けることが、信頼される仕事の出発点になります。
5.「私の読書メモ」でご紹介した本
本書はタイトルどおり、企業に身を置き、一社員として働くことの意義を、新入社員、中堅社員、幹部社員に向けて説いたものである。
しかし、読者の中には違和感を持つ人があるだろう。なぜなら、松下幸之助自身は、丁稚奉公と電灯会社に勤めたわずかな期間以外は、常に経営者として社員を遣ってきた立場の人物だからだ。
ところが本書で述べられている、それぞれに経験の異なる“社員としての心構え”の根底にあるのは、松下電器を大きくするための要求ではない。企業で働くことを通して、ビジネスマンとしての、いや人間としての幸せと成功を感得するには、こう考えたらいい、こういう生き方がよいということを説いているのである。
今、若者は働き甲斐を見出せず、中堅・幹部はリストラを恐れている。社員として働くとはどういうことか、いま一度、原点に返って考えてみるのに絶好の一冊である。(出版社より)
松下幸之助ー社員心得帖(幹部社員の心得から)










